ウメノキゴケのアンモニア発酵で紫色を染める
ウメノキゴケという苔をアンモニア発酵させて、コットンを紫色に染めました。染液の作り方や、染めた方法、失敗したことについて書きます。
草木染めでは、ウメノキゴケのような地衣類も染料として使われます。ウメノキゴケは、紫色が染められる染料として有名です。でも、アンモニアを使うので、とにかくニオイがくさいのが難点です。
最近、臭くなく1日でウメノキゴケの紫色を抽出して染める方法を、染織情報アルファ2019年6月号で読みました。「目からウロコの草木染技法(32)ウメノキゴケは発酵ではなく化学反応で紫色素が出来る」という記事です。それによると、必ずしも発酵が必要なわけではなさそうです。でも、その方法で使う薬品をどこで買えばよいのかがわかりません。
染液を仕込んだ日:2019年4月12日
染めた日:2019年6月中旬
※ウメノキゴケと思い込んでいた樹木に付着した写真が違うコケである可能性が高いです。参考にされた方がいましたら申し訳ありません。
目次
ウメノキゴケ染液作りの材料
- ウメノキゴケ 乾燥した状態で30g
※実際は25gでやりましたが、2つのうち1つ失敗しました。コケが少ないと失敗するのかもしれません。 - アンモニア水 100mL
(【第3類医薬品】日本薬局方 アンモニア水 100mLをドラッグストアで購入) - 水道水 200mL
- オキシドール(過酸化水素水)15mL = 大さじ1弱
(【第3類医薬品】日本薬局方 オキシドール 100mLをドラッグストアで購入) - ガラス瓶 450サイズ
※苔と液体の比率
乾燥したウメノキゴケ10g:水で3倍に薄めたアンモニア水100ml:オキシドール5ml
※染める布量の目安:乾燥した苔30gの場合、布60gを染める
ウメノキゴケ染液作りの手順
- ウメノキゴケから樹皮やゴミをよく取り除く(重要)
- ウメノキゴケを細かく砕いて、ガラス瓶に入れる
- 屋外で、アンモニア水を薄める(市販のアンモニア水100mlに水200mlを入れ、全体で300mlにする)
- 屋外で、ウメノキゴケが入ったガラス瓶に薄めたアンモニア水を少しずつ入れる。まぜる。
- 屋外で、オキシドールを大さじ1弱入れる
- ガラス瓶のフタをしてゆする
- 1日1回以上、ふたを開ける。ふたを閉めた状態でガラスビンをゆすってまぜる
- 10~30日以上発酵させる(私は2ヶ月後に染めました。本では1年後に染めていました)
- お湯で薄めて布を染める(煮染めできれば、煮たほうがいいかも)
ウメノキゴケ染液作りの写真と説明
ウメノキゴケをもらう
手創り市で会った方から、ウメノキゴケをゆずっていただきました。
草木染めをしない人には、たいしたことないコケですが、草木染めをする人には貴重なもの。自分では探し出す自信がなかったので、助かりました。ありがとうございます。
ウメノキゴケの見た目は、キクラゲを小さくしたみたいです。これから紫系ピンク色ができるなんて、不思議じゃないですか?
いただいたものはきちんと紫になりました。
ウメノキゴケの採取
採取したものは失敗しました。ウメノキゴケとウメノキゴケではない苔を混じって採取したと思われます。
左側が、乾燥した状態で、手創り市で会った方にいただいたもの。右側が、山梨の猫舟さんのお庭で採取したもの。
※猫舟さんの庭でウメノキゴケを発見した話はこちら→ 北杜市に移住した人を訪ねる
別々のビンで染液作りに挑戦して、山梨で採取したほうは紫色が出ずに失敗しました。
失敗した原因としては、乾燥が甘くて、その分、コケの量が液量比率で少なくなったこと、樹皮などのゴミの取り除き方が甘かったことが失敗の理由ではないかと思っていましたが、違うコケが混じっていたためかもしれません。
たくさん採取したつもりでも、25g程度でした。コケは薄くて軽いので、量を採るのは大変だと思いました。樹皮やゴミを取るのは結構大変です。乾燥させた後のほうが樹皮が取れやすい感じがしました。自分でやったものは取り除き方が甘かった気がします。
追記:ウメノキゴケの特徴
梅や桜の木についている、ちょっと緑がかった色の苔です。大気汚染に弱いので、都会ではあまり見かけません。
人から聞いたウメノキゴケの特徴は、フリフリで花っぽくて丸いこと。カビっぽい感じになっていることもある。
これがウメノキゴケのはず。
これもウメノキゴケのはず。
これは、以前に採取して失敗した時のもの。同じような、違うような。判断がつきません。
アンモニア水とオキシドール
アンモニア水とオキシドールは、近所の薬局を何軒かまわって、入手しました。
アンモニア水は大きい500mLサイズもありますが、計量する時も臭いので、そのままの量を使いきれるサイズがいいと思います。
アンモニア水の薄め方に悩む
染め方が書いてある本に、「アンモニアを水で薄める」と書いてありました。売られている製品自体が「アンモニア水」という、アンモニアを水で薄めた状態で売っているものなので、それをさらに薄めるのか、それとも比率を計算するべきなのか悩みました。
製品の成分分量を見ると、9.5~10.5w/v%と書いてあって、100ml中にアンモニアが9.5~10.5g入っている状態です。アンモニア自体は気体なので、一般人が水に薄めることはできないし、市販のアンモニア水のことをアンモニアって書いてあっただけだ、と判断しました。
そしてさらに、「アンモニア水」という言葉が、水で薄めた後の状態をさしているのか、薄める前の製品の状態のことをさしているかに悩みました。判断を誤ると、材料が3倍も違う量になります。おかげで、アンモニア水という商品を余計に買ってしまいました。
あと、「3倍の水で薄める」という表記と、「水で3倍に薄める」という表記があって、悩みました。100mlを3倍の水で薄めたら、アンモニア水100ml+水300ml=合計400mlになるし、水で3倍に薄めたら、アンモニア水100ml+水200ml=合計300mlとなるので、だいぶ濃度が違います。
いろいろな情報源を総括的に判断して、後者の「水で3倍に薄める」ことにしました。
ガラス瓶
「発酵」ということなので、天然酵母をCOBO式というやり方で作るときによく使っていた、スクリュータイプのフタ(くるくるねじってしっかり密封できる蓋)のガラス瓶を使いました。フタだけでも売っているので、フタがダメになっても、ガラス瓶だけ再利用することができます。
アンモニアはにおいがキツイので、きちんと密閉できるフタのものがよいです。色としては遮光したほうがいいかもしれませんが、中身が確認できるので透明のガラス瓶にしました。
ウメノキゴケを細かくする
ウメノキゴケをミルサーにかけて、粉末状にしました。粉砕後すぐにフタを開けるとこなっぽい空気が出てくるので、しばらく放置してから取り出しました。
粉砕したウメノキゴケをガラス瓶に入れました。
手順を検討してから、屋外で混ぜる
くさいので、必要なものをお盆に載せて、ベランダに移動。屋外で作業しました。
ウメノキゴケ入りのガラス瓶、そのフタ、アンモニア水を薄めた液を作るための容器、分量どおりの水道水、計量スプーン、混ぜるためのスプーンなどです。
市販のアンモニア水を水で薄める
発酵するものとは別の容器に、水道水200mlを入れて、市販のアンモニア水100mlを加えて混ぜました。くさくて計量する気にならないので、そのまま100ml使いきりました。臭いので、アンモニア水よりも水を先に入れるのがよいと思います。
アンモニア水の容器の口の部分は、細くなっていました。口の部分をはずして注ぎたかったのですが、取れませんでした。
ウメノキゴケにアンモニア水を加える
ウメノキゴケを入れたガラス瓶に薄めたアンモニア水を少しずつ加えて、スプーンで混ぜました。
オキシドールを加える
発酵を促進させるためにオキシドールを入れます。大さじ1弱を入れました。急がなければ入れなくてもいいのかもしれません。
仕込み完了
きっちりフタをして、瓶を上下に振ることで液を混ぜました。左が上手くいったほう、右が失敗したほうです。
翌日に紫色が出る
上手くいったものは、翌日には液に紫色が出てきました。失敗したものは、茶色のままでした。
1日1回以上、瓶のフタをあけて空気を入れ、フタを閉めて上下にゆすることで液を混ぜました。液に顔を近づけると、鼻がツンとする刺激臭がするので、ふたを開けた状態では顔を近づけないほうがよいです。
紫色が出た後も、空気を入れたり、液をまぜる必要があるのかはわかりませんが、やりました。
1週間後の液の色
1週間後も失敗したものは茶色のままでした。
紫色が出ているほう(成功したほう)の写真。
紫色が出てないほう(失敗したもの)の写真。泡が立っているのは、ビンを振った後に開封したためです。
1ヵ月後
液垂れすることがあるので、日が経つにつれ、フタの回りが乾燥した状態になり、瓶のフタをあけるたびに紫色の粉が落ちるようになったので、瓶の下に何かひいておいたほうがよいです。
こぼしてしまった液をティッシュでふいたときの写真。5月9日、仕込みから1ヵ月後で、紫色でした。
ウメノキゴケ染色の写真と説明
屋外でウメノキゴケ染め作業
2ヵ月後、屋外で草木染めする機会ができました。染液をこし布(テトロン紗というメッシュ)でこしてから、布が浸る程度にお湯を追加して薄めて、コットンを染めました。
※屋外で草木染めした時の話はこちら→ 自然の中で、屋外かまどで草木染め
本で見た染液の色より青みが強い感じでした。アンモニア水の比率が高かったせいかもしれません。
参考にした本が無媒染だったので、媒染はしませんでした。退色が激しかったので、媒染すればよかったと後から思いました。濃染もしていません。
木綿のオックスフォード生地がピンク系の薄紫色に染まりました。浸す時間が短くなってしまったこともあって、薄い色になりました。
本で紹介されていた方法は煮染めだったので、煮染めがよいかもしれません。でも、アンモニア臭に包まれながら煮染めするのは、結構大変な気もします。
※猫舟さんは同じ染液でシルクも染めていました。染めた生地の色は、猫舟さんのブログをみてください→ 草木染三昧、猫は退屈? - 猫舟神社ーこの夢当る子ちゃん!
ウメノキゴケ染めの参考書籍
アンモニア発酵での染液作りや染色は、下記の本を参考にしました。また、地衣類研究会のウェブサイトの地衣類染色法のページなども参考にしました。
- 植物染料による絞り染め(寺村祐子・豊仁美 著)
- ウールの植物染色(寺村祐子 著)
臭くなくウメノキゴケを染める方法
田中直染料の講習会のホームページを見ていたら、ウメノキゴケの染め方講座(満席)がありました。「悪臭のアンモニア水や不安定な過酸化水素を使わずに1日で紫を作る方法」と書かれていたので、とても気になりました。
調べていくうちに、染織情報アルファ2019年6月号にも「目からウロコの草木染技法(32)ウメノキゴケは発酵ではなく化学反応で紫色素が出来る」という記事が載っていることを知り、読んでみました。
それによると、必ずしもアンモニア発酵が必要なわけではなさそうです。ただ、そこにでてきた無臭アンモニアはどこで買えるのかわからないし、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)は劇薬扱いだから使うのも怖いし、そこまでしなくてもいい気がしました。
興味がある方は、雑誌を読んでみてください。染織情報αという雑誌は、普通の図書館には置いていません。田中直染料や出版社(染織と生活社)で買えると思います。私は上野にある、東京藝術大学附属図書館で読みました。学生や関係者ではない一般人でも、運転免許証などの身分証明書を持っていって必要書類を記載すれば、本の閲覧やコピーは可能です。すべての号が揃っているわけではありません。国立国会図書館にも所蔵されているようです。
ウメノキゴケ染めで思ったこと
- 染めた生地でポーチなどを作りたい(いつの日になるかわからない)
- 材料集めも、染液作りも、屋外での染色作業も、アンモニアのニオイ対策も、なにかと手間がかかる
- 染めた色が薄すぎたからか、無媒染にしたからか、色落ちしやすい感じ
- 今度染めるときは、濃染して濃く染めたい。媒染もしてみたい。
※不明点やアドバイスがありましたら、お問い合わせフォームもしくはインスタグラムから、お気軽にお知らせください。