先媒染か後媒染か
草木染めをする時、特別な染料以外はミョウバンなどで媒染をします。媒染剤の金属イオンが、布の繊維と色素をつなぐ役割をします。発色効果もあります。
時々悩むのが、先媒染と後媒染、どちらにするかです。
- 先媒染:媒染→染液
- 後媒染:染液→媒染→染液
普段、媒染をする基本は後媒染(中媒染)のほうです。でも、先媒染で行われる染料もあって、その際に、先媒染にすべきか後媒染にすべきか、悩みます。
これが正解!という答えは出てませんが、いままで調べたり、考えたりしたことを書きます。
目次
普通は後媒染にする理由
後媒染をするのは、先に媒染してしまうと、媒染剤が邪魔をして染色液が布の内部に入り込まず、色落ちしやすくなるからだと思います。文献を引用します。
草木染では先媒染しないのが普通である。先媒染することによって染液の浸透力がおさえられて、布地の表面だけの染色になる恐れが多いからである。表面だけの染色なので確かに早く濃色が得られるが、摩擦堅牢度は低い。また草木染特有の深味のある色相も失われる。
引用元:草木染 型染の色(著:山崎青樹)
薄い色より濃い色に染めたほうが色落ちしにくいとよく聞きますが、ぱっと見て濃い色に染まったからといって、それがしっかり染まっているとは限らない、ということですよね。悩ましい。
堅牢度(退色・変色のしにくさ)の話になってくると、使ってみて、時間が経過しないと判断できない(染めたその場ではわからない)ので、むずかしいです。
先媒染の効果
一方で、先媒染することによって、色素が付く部分を増やす=堅牢になる、という考え方もあるようです。
先媒染と後媒染では、媒染の役割が少し違っています。
先媒染では、色素分子が付く部分を増やして、染まる色素の量を増やす。また、色素分子が付きやすい部分に入りやすくする。という効果。
後媒染では、色素分子と結合したりして、色素の吸着を補強する。という効果。
木綿や麻での先媒染
シルクの先媒染というのはよく見かけるのですが、木綿や麻ではあまり見かけません。
濃染処理をしていないコットンや麻(植物繊維)の場合、シルクと繊維の性質が違うため、媒染の金属が繊維に吸着しにくいです。
だから、シルクで先媒染をする染料でも、木綿や麻ではしない、ということがありそうです。
豆乳や濃染剤などで濃染処理した場合に、先媒染をしてどの程度金属が吸着するのかは、よくわかりません。うまくいっている気がするのですが、無媒染でも色は染まるので、アルミ媒染がうまくいったか判断するのは難しいです。
ウールを染める時は先媒染
ウールは、みょうばんや鉄媒染剤で先媒染します。(アルカリで風合いが損なわれるから灰汁などは不向きらしい?)
単にフェルト化しやすいから工程を減らすことだけが理由ではないはず。ウールは色が入りやすいし、構造も違うから先媒染でも問題ないってことなのかな?ウールのことはよく知らないので、今後調べてみたいと思います。
また、和紙の引き染めとか、素材や染め方の技法によって媒染のタイミングが違うものはあるかと思います。
先媒染の金属
アルミ媒染(みょうばん、灰汁など)で先媒染というのをよく聞きます。
逆に、鉄媒染で先媒染というのはききません。
錫(スズ)も先媒染しているのをみかけました。ほかの媒染金属はわかりません。
よく先媒染されている植物染料
なぜ先媒染なのか?がわからなくて悩みます。
紫系や赤系のきれいな色合いのものが多く、染まる色あいを重視して先媒染にする感じはしています。それだけの理由なら、後媒染で染まった色が気に入るなら後媒染で染めてもいいのかもしれません。
茜染め
アカネは、古来から灰汁による先媒染。「アカネ染めは先媒染」が多いです。日本古来の方法で染めることがテーマなら、先媒染なのかも。
茜色を染める時は、シルクを先媒染にして染めるようです。
でも古来の人が染めている茜はニホンアカネで、普通は手に入らないものだと思うので、よく売られているセイヨウアカネやインドアカネで染めるなら、別に茜色にこだわらなくてもいいのではないか?という気もします。
わたしは何も考えずに後媒染で染めていたので、別に後媒染でいい気がしています。逆に先媒染で染めたことがないので、違いがわかりません。これからやってみたいです。
追記:原理的なものが本に載っていたので、引用します。
茜のアントラキノン系の色素はいずれも水溶性が小さく、煎じ出した液の中では懸濁状態になっていますので、通常はアルミニウムイオンによる先媒染をして染着しやすくしています。
引用元:自然を染める―植物染色の基礎と応用(著:木村光雄、道明美保子)
懸濁というのは、個体が液体に分散している状態です。
木綿の場合は、インド更紗のようにミロバランなどでタンニン下地すれば、金属イオンも付きやすくなるので、それがよさそうです。タンニン下地の次が媒染になるのかは、よくわかりませんが、どっちでもいいような気がしています。何度も媒染と染液の往復を繰り返して染めるのもよさそうです。
紫根染め(紫草染)
紫根(シコン)も、古来から灰汁による先媒染。こちらも、日本古来の方法で染めるということがテーマなら、先媒染になるはず。
椿灰を使ってアルミ先媒染をして、高貴で艶やかな本紫を染めるのかと思います。
そこは自分の目指すところではないので、別にそこまで色にこだわらなくてよさそう。
わたしは何も考えずにアルコール抽出で紫根から色素を取って、後媒染で染めたことがあります。普通にきれいな色だと思ったので、後媒染でいい気がしています。(それよりもシコンはニオイが気になります)
コチニール染め
コチニール(サボテンにつくカイガラムシ)も先媒染すると色がきれいに出るそう。
普通に後媒染で染めても派手なピンク色になるので、色あいとしては後媒染でいいと思っています。
ただ、後媒染でみょうばん媒染した際、媒染液に色が流れ出てくる点が気になっています。せっかく染めた色が流れ出てしまうのが、もったいない感じがして、先媒染にしたくなります。
ラックダイ
コチニールと同じカイガラムシからとれる動物染料なので、先媒染のほうがいいのかな?と思ったのですが、別に後媒染でいい気もします。
ログウッドのアルミ媒染
ログウッドは、無媒染とアルミ媒染で発色が全然違います。後媒染にすると紫色がくすみやすいため、きれいに紫を発色させたいなら、先媒染です。
後媒染(染液→媒染→染液)にしても、結構いい色になったので、別に後媒染でいい気もします。
下の写真の、左側が無媒染、右側が後媒染でアルミ媒染したログウッド染めのシルクです。
ただ、ロッグウッドの場合も、後媒染でみょうばん媒染した際、媒染液に色が流れ出てくる点が気になっています。
その後、後媒染で発色に失敗しました。ログウッドは先媒染がおすすめです。
蘇芳染め
蘇芳染めも、よく先媒染されています。
スオウも、後媒染にしても結構きれいな紫色やえんじ色になったので、別に後媒染でいい気がします。
ただ、蘇芳の場合も、後媒染でみょうばん媒染した際、媒染液に色が流れ出てくる点が気になっています。
クチナシブルー
情報があまりなく、たまたま見た手順が先媒染だったので先媒染なのかな?と思ったのですが、よくわかりません。別に後媒染で染めてもいいのかもしれません。
クチナシ(黄色)は、無媒染の染料です。
媒染液に色が流れ出る
コチニール、ログウッド、蘇芳について、後媒染でミョウバン媒染したら、媒染液に色が流れ出てきました。
せっかく染まった色が抜けていくようで、もったいなく感じます。どちらかというと、シルクよりコットンのほうが色が出やすい気がします。
ブルーベリーなどのアントシアニンの色を酸でもみだしてアルミ媒染しようと思った時も、同じように流れ出ました。
なんだか色がもったいないので、先媒染にしたくなります。先媒染にしないまでも、はじめに染色液につける時間を短くしたくなります。
無媒染でよい染料
無媒染でおこなう、媒染を必要としない染料もあります。
紅花、クサギ、花びら染め(酸媒染)、キハダ、クチナシ、サフラン、ベニノキ、柿渋、藍の生葉染め(酸素による媒染)は無媒染です。ウコンもかも。
この「無媒染でよい」というのも曲者です。媒染するから色止めになる、と思っていたのに無媒染でいいなんて、混乱します。無媒染と言われている染料の場合、媒染しても媒染効果が出ないのかと思います。
便宜性による理由
ワークショップなど草木染め体験の場合、手順の簡便さから先媒染にすることはありそうです。
下処理や媒染は主催者側が事前にしておいて、参加者は染液で染めるだけにすれば、簡単に短時間で染物体験会ができます。そういった時は便利なので、先媒染が活用できそうです。
また、染色テストをする際、先媒染にすれば、まとめて一度に媒染の処理ができるので、時間の節約になります。
同時媒染
先媒染と後媒染以外に、染液に媒染剤も一緒に入れる「同時媒染」という方法もあります。
液の中で色素と媒染が反応してもったいない感じがするので、やったことはありません。
同浴の手法は、ハーブ染めに多い気がします。なんでなんでしょう?
染液と媒染液が結合して沈殿するものは同時媒染できない(銅媒染や鉄媒染だと沈殿が多いらしい)
先媒染か後媒染かで思ったこと
- 単なる色の好みで先媒染にしているものが多いのであれば、後媒染でいいのかも
- みょうばん液に色が流れ出てしまうものを、どうすべきなのか知りたい
- 参考文献にはシルク染めが多くて、自分は木綿を染めたいので、そこに問題があるのかも
曖昧な部分が多くてすみません。何かご存じのことやアドバイスがありましたら、お問い合わせフォームもしくはインスタグラムから、ぜひ教えてください。