自然の色を染める。草木染めと自分の立ち位置

高価なお着物などの伝統工芸品から、ちいさな子どもが作る色水まで。植物で染める、ということを草木染めと言うならば、たくさんの種類があります。

植物から色をとって、それを布に染めること。私自身は、そこに興味があります。できれば、好きだと思う色を、身近なものから染めたいです。

自分が目指すのは、どのような草木染めなのか、現時点での考えを書きます。

草木染めに興味を持ったきっかけ

一番初めに草木染めというものを意識したのは、NHKの番組を見た時でした。古来の伝統色の茜を再現する話で、わざわざ植物を育てるところからしているという話。鮮やかな赤い絹布がテレビに映っていて、「ふうん、草木染めってこんなに鮮やかな色も染まるのだなあ」と思ったのが、興味を持ったきっかけです。

その日に近場の草木染めワークショップを探して申し込み、数週間後に実際体験してみて、「布に色が入るだけなのに楽しい」と感じました。その時染まった色はエンジュの黄色。好きな色ではありません。でも、心が動かされました。

もっと自分の好きな色も染めてみたい、布を染めて自分の服を作ってみたい。そう思って別の教室に行き、手順を教わって、大きな布を染めました。

何に惹かれるのか

ただ単に布が染まるだけなんですけど、そこに心を動かされるのはなぜなのか。

布を染めるのが楽しいだけなら、だったら化学染料でもいいのか。うーん、やったことがないので、わからない。わからないというか、やる気にならない。なぜなんだろう。

どういう方向の草木染めをしたいのかと自問した時に、堅牢度(色落ちのしにくさ)という大きな問題がそこに出てきます。だから、化学染料でもいいのか?という話も出てくるのですが、今まで一度もやろうと思わなかったので、やりたくないのだと思います。

世の中で普通に売られている服は、化学染料で染まっていて、鮮やかな色で、何度も洗濯機で洗濯できて、お日様に当てて干すことができます。草木染めではそういう風には簡単にはできません。

化学染料に対して、「染めてみたい」という原動力になるものがないです。化学染料を使うとしたら、手段であって目的ではないもの、と感じます。

例えば「絵を書きたい」という原動力があって、そのための道具の1つが「絵の具」であるように、「◯◯(靴とか服とか)を染めたい」という目的があって、そこに化学染料がある感じ。自分にとっての草木染めは、手段ではなく目的です。

草木で染めてみたい、と思っています。それが目的であって、手段ではないです。

「自然の色を染める」みたいなタイトルの本がたくさん存在しますが、まさしくその、自然で色を染めてみたい、という気持ちです。

草木染めの価値

草木染めに興味がある人も幅が広くて、自然派な人、植物派な人、染色が好きな人、手元にある布や糸を染めたい人、作品を作りたい人、感覚的に惹かれている人、さまざまかと思います。

草木染めのよさ=価値を考えてみると、こんな感じかと思います。

  • 植物から染まる価値
  • 自分自身が染めるという価値
  • 面白い、奥深い価値
  • きれいな色に染める価値
  • リサイクルやリユースできる価値
  • 染め直しができる価値
  • 物語がある、意味をもつ、伝統的である価値
  • (人によっては)天然である価値
  • (人によっては)薬効や力

私が特にいいと思っている部分は、はじめの4つです。植物から自分で染める、おもしろい部分。そして、きれいな色を染めてみたいです。

実験的でおもしろい部分がたくさんあります。

あと、草木染めに、すごく広さを感じます。伝統工芸品を作る職人さんもいれば、キッチン染めを楽しむ人もいて、自由研究をする子どももいる。学術的に研究する人もいる。使う染料も、限定しなければ限りなく、植物の数だけ、それ以上にある。それも魅力といえば魅力です。

手間暇の価値というのも、あるかもしれません。

悩ましい点は、色落ち堅牢度問題。それについては以前こちらに書きました→ 草木染め販売と堅牢度のこと

植物から色を取り出すこと

染液を煮出すと、自然なにおいがして、ちょっと好きです。染料として有名なものには、漢方やスパイスであることも多く、ここちよい匂いがします。

植物染料は、葉っぱや根っこを乾燥させたものが染料店で売っていて、それを水に入れて煮出すと、染液が作れます。別に買わなくても、雑草でも、自分で育てている植物でも、野菜や果物の皮や種など身近なものからも作れます。

液体の植物染料も存在していて、ビンに液体が入って売っています。見た目の雰囲気は化学薬品や食紅に近いです。既に植物から色素をとったものだから、煮出す手間がありません。お湯や水に溶かせば簡単に染液が作れます。

液体染料には特に興味はなかったのですが、たまたま、使われていない染物道具や染色用の薬品をゆずってもらう機会があり、その中に液体植物染料もありました。

元々の自分の志向とは違うものの、「今あるものを有効活用したい」という気持ちは自分にぴったり。ワークショップを開催して、みんなで染物に使いました。濃度の調整も、複数の色を作るのも簡単。模様をクッキリ入れたり、青に黄色を重ねて緑に染めるなど、普通にはやりにくいこともできました。

でも、やっぱり液体染料よりも、植物を煮出したいと感じています。それは中身の成分の問題ではなくて、感覚的なものです。そしてできたら染料を買うのではなく、身近な植物や食品を使いたい。

ベンガラ染めも天然染料として人気があります。やったことはありません。やってみたいかというと、土から顔料を作る工程はやってみたいです。でも、その顔料を買って染めることには興味がありません。

植物から自分で色をとって、それを布に染めること。そこに興味があるようです。できたら、好きだと思う色に染めたい。

模様入れにもさほど興味がありません。だから、模様入れの腕が上がりません。(型染めはもっとできるようになりたいですが)

草木染めの中での違いと、服を染めること

「染料として有名な植物を使う」ことと、「身近な植物や食品を染料にする」ことにも、かなりの差を感じます。

藍、茜、紅花、コチニール、ラック、蘇芳、五倍子、ログウッド、紫根。伝統的でかわいい色も染まる染料です。

じゃあこれらが現代の生活で身近なものかといったら、身近ではないですが、身近な植物や食品で染めることと比較すると、よく染まる感じがします。服を染める時は、これらを使いたくなります。

中でも藍染(藍建て)は別格で、実用性があります。ただ、化学的でなく染めようと思うと、労力がはてしないです。

同じではないということを認識した上で、両方とも染めていきたいです。

「服を草木染めしたい」という気持ちと、「身近なもので、かわいい色を染めたい」という気持ち。ここがずっと相反していて、モヤモヤしていました。

「堅牢度」を優先すれば、手法や染料がかなり限定的になるか、化学的になります。「身近なものでかわいい色」を優先すれば、色落ち色変わりします。

もしかしたらそれを克服した方法が存在するのかもしれませんが、私は知りません。

落ちる色を染める説明責任

好きなように染める自由と、オリジナリティと、説明責任。

販売するのであれば、その色は取れてしまうよ、ということを説明する責任があります。でも価値はある、と思う人が買えばいい。それだ!と思いました。

他の人の迷惑になること、が怖い。例えばすぐ色が落ちるような製品を私が販売して、他の作家さんや工業的な商品の草木染めも同じ、と思われたら怖い。染めた在庫をメルカリで販売しつつ、ずっとそう思ってきました。

植物からこんなにかわいい色が染まる。でも日光や洗濯、経年変化に弱い色。退色したら台所で気軽に染め直してもらおう。そういう作品作りをしていこう。売るなら。そう思いました。

私が売りたいのは、「植物から染まる楽しさ」なので。

幸いなことに、今、染めてから形になってないまま年月が経ってしまった布がいくつか手元にあるので、それを形にして製品にして、販売していこうと思います。染めた後に時間が経ったほうが、色が固定されます。半年と思っていたけれど、1年は置くといいそうです。

自分の草木染めのこれから

ワークショップでピンク系を染めることが多いですが、桜染めやびわ染めのようなピンク色、アボカド染めには可能性を感じています。

ワークショップではまだやったことはありませんが、ブルーベリーの紅葉した葉っぱから染めた色にも可能性を感じています。

まだ始まったばかり。道半ばなので、これからも進化していきたいです。

最近、人からお話を聞く機会を増やしていて、ジワジワと自分に影響していく感じがします。

※不明点やアドバイスがありましたら、お問い合わせフォームもしくはインスタグラムから、お気軽にお知らせください。