藍染とは何か
藍染って「あの紺色のやつ」ということは誰でも知っているけれど、じゃあ何?と掘り下げていくと、いろいろありすぎて、よくわかりません。
私が気になっている点は、「藍染めに本物と偽物があるのか」です。「本物は色落ちしない」と聞いたけれど、その「本物」が何を指しているのか?まではまだわかっていません。
藍染について「知識不足かと思います。誤解が蔓延します。適当なことを書かないでください。」とご意見をいただきました。自分の知識メモ代わりに書き込んだ部分もあったので、このページに書いたことかと思います。
そのまま放置して誤解を蔓延してしまうのも申し訳ないので、草木染めを始めたばかりの藍染シロウトの私から見た「藍染について思ったこと」という気持ちを中心に書き直しました。
言いたかったのは、「藍染と言っても複雑すぎて、わたしはどの藍染に進めばいいのかわからない」という気持ちです。
紺色も青も好きな色です。藍染ができたら、他の草木染めと重ね合わせれば色のバリエーションが一気に広がると思うものの、まだ藍染にたどり着けていません。
目次
藍染について、はじめに思ったこと
藍染には、昔ながらのやり方と、薬品を使う場合がある。ということは、草木染めを始めた当初からなんとなく感じていました。
建てかたの違い
藍染は建染めで、他の草木染めとは違うということを意識してからは、「昔ながらの、藍ガメがある伝統的な藍染」と「バケツでできる薬品をつかう藍染(化学建て)」との2種類を区別すればいいのかと思っていました。
- 建てる・建染 水に溶ける状態にして、染色すること。還元反応を利用した染色。藍建ても建染の1つ。
- 本建て・発酵建て 古来からの方法。藍に含まれる菌、微生物の作用で還元する。
- 化学建て・ハイドロ建て 微生物ではなく、薬品のハイドロで還元する方法。藍染を自宅でやるならこれだと思います。
化学建てではない藍染を経験できる場所は、都心を離れないと、なかなか無さそうです。手作り市に出店していた地方の藍染屋さんも、「藍がめにはニオイがあるから都会では難しいよ」と言っていました。
だから、身近な「化学建て」と、身近ではない「本格的なの藍がめで育てるやつ」の2区分があって、「本格的なやつもやってみたい。でも、身近にはできる場所がない」と感じていました。
私は都会に住んでいるので、気軽に藍染を体験できる場合は、普通は化学建てです。簡単にできる藍染セットが染料店などで売られていて、自宅で染めるならそれが簡単です。
- アナンダの賢い藍染セット(インド藍と化学建ての材料がセットになっている)
- 田中直染料の天然藍堅ろう染セット(天然藍濃縮液と化学建ての材料がセットになっている)
- 誠和の紺屋藍(水に紺屋藍と藍溶解剤を入れて藍液を作れる。原料は天然藍)
- 藍熊染料の大和藍(水で溶かすだけで藍液が作れる)etc
藍原料での違い
そして、植物由来ではない合成されたインジゴを使うことを偽物とするなら、草木染め的には納得がいくので、化学建てには合成藍が使われているのかと思っていて、スッキリしていました。(でも、実際は、化学建てでも天然藍を使うことも多いことを後から知りました)
インディゴ(インジゴ)には天然のものと、合成のものがあって、植物由来か石油系由来かの違いです。
- インジゴ・インディゴ 青藍色の色素の名前。
- 天然藍 植物から採取されたものが天然藍。インジゴ以外の色素も多く含まれるので、深みがある色。
- 合成インジゴ・合成藍・人造藍 化学薬品アニリンを原料として、化学反応でインジゴを作る。少量で簡単に大量生産できる。
- インディゴピュア 合成インジゴ。合成ものは純度が高い。インジゴだけのピュアな色。
藍染とは、藍を使った染物。英語にすると、Indigo dye。そこに合成藍も含まれるのか?などの詳細な定義は見当たりませんでした。たぶん含まれると思います。
いろいろ種類があることを知る
原材料
藍建て方法の説明を読むと、「スクモに石灰、灰汁、水などを加え加熱、発酵させる」「スクモを藍がめに入れて灰汁とふすまと石灰で藍建てをする」などとあり、日本酒を入れることもあります。
灰汁や石灰はアルカリにするため。ふすまや日本酒は微生物の栄養。
ものによって使う材料が少し違い、「~を使っている」「~を使っていない」ということが、差別化ポイントになっていると感じました。
差別化
工房や地域によって、たくさんの差別化ポイントがあるようで、地域による多様性だけでなく、「少しでも使っていれば〇〇と表記してよい」系の商業的な雰囲気と、それと区別することで差別化を図る姿勢を感じました。
例えば、下記のような点で区分けされていると思いました。(おかしな点があれば教えてください)
- 天然藍なのか/合成インジゴなのか
- 天然藍100%か/合成インジゴ混合か
- すくも使用か/沈殿藍を使用か
- 徳島産の「すくも」かどうか
- 加温するのか/常温か
- 一から作る時に、灰汁だけか(ふすまをいれるかどうか)
- 一から建てたものか/完成した藍液を足したものか
- 化学的なものを一切使わないかどうか(天然のもの100%か)
- 発酵建て/化学建て
- 色止め剤を使うかどうか
- (追加)藍が無農薬有機栽培か/農薬や化学肥料を使うか
ぱっと見、同じ紺色の布でも、染め方、布がその色になるまでの道のりで、テマヒマがかなり違いそうです。その商品の付加価値はどこにあるのか?という点は、まだ調べてません。
いろいろある
「本物の藍染というのは、どこに行けばできるのだろうか」と考えるうちに、本格的な感じの、藍がめで育てるやつにも種類があることを知り、その辺りで混乱してきました。
「本建て」「発酵建て」以外にも、「正藍染」「正藍」「本藍染」「本藍」「天然灰汁発酵建て」などのいろいろな言葉が出てきて、何がどう違うのか、わからなくなってきました。
化学建てや合成藍と区別しているだけなのか、工房や地域ごとに何かしらこだわりがあってそれを表現する言葉なのか。同じお店でも、その言葉が付く商品と付かない商品があったりもします。
以下は、定義がはっきりしていそうと思った言葉です。
- 阿波正藍 阿波藍の藍染伝統的技術は「阿波正藍染法」として、徳島県の無形文化財に指定されている。
- 阿波藍 徳島県の藍染めは、阿波藍を原料にする。徳島のブランド。
- 武州正藍染 埼玉県の武州地域(羽生市・加須市・行田市)で行われている藍染め。商標登録されている。
シンプルではない
シンプルに2区分できるわけではなく、いろいろなパターンがあることも知りました。
天然染料と合成染料を混ぜたり、重ねたりする場合もあるということや、化学建てだとしても藍の材料は天然藍(インド藍の沈殿藍、乾燥葉など)を使うこともあることを知りました。藍がめを一から作るのはとても大変、ということも知りました。
- 割建て・混合建て すくもなどを一度発酵させて、その中に濃度のある合成藍を添加する。短期間に大量に濃色にできる。工業的なものはこれ。
- 地獄建て(地獄出し)・誘い出し 藍建てには一から作る「地獄建て」と、完成している藍液を足して作る「誘い出し」がある。地獄建ては、万に一つ建てばよいぐらいむずかしいらしい。
藍の種類
また、天然の「藍」と一言で言っても、植物の種類はいろいろあります。日本で主流な「タデ藍」の中にも種類があることを知りました。
- 藍草 1つの植物の名前ではなく、色素を含む植物の総称。インド藍(マメ科・インド周辺)、タデ藍(タデ科・日本や中国)、琉球藍(キツネノマゴ科)、大青(アブラナ科・ヨーロッパ周辺)、ウオード(アブラナ科)などが有名で、80種類以上ある。
- タデ藍 日本ではタデ藍が主流。タデ藍の中にも、たくさんの種類がある。小上粉(こじょうこ)という種類が多い。
- インド藍・印度藍 藍の色素量が多い。植物の種類を指す場合と、インド藍から作った沈殿藍を指す場合がある。すくもより青みが強い。
- 琉球藍 泥藍に加工して、沖縄の藍染めに使われる。多年草。
あまり深く考えずに(生葉染め用に)ベランダでタデ藍を育て始めましたが、交雑しないように種類は分けたほうがよいことも知りました。
藍染が盛んな場所
藍の収穫量からみると、やっぱり徳島が本場なのかなと感じます。沖縄は琉球藍だから別物、別格という感じもします。次は北海道なんですね。気温が低くてもいいものなのかな?
2007年の藍の収穫量
都府県名 収穫量(t) 主産地 主要品種名 北海道 15.00 伊達市 青森県 1.05 青森市 小上粉 兵庫県 4.20 西脇市 小上粉 徳島県 75.00 上板町、石井町、阿波市 小上粉 宮崎県 0.75 三股町 沖縄県 31.60 本部町 琉球藍
藍染体験
やるなら本場のものを教わりたい、合宿に行きたい、遠い、お金もかかる、というハードルが高い。そして、一箇所ではないので、どこに行くべきかわからない。そんな気持ちで時間が過ぎていきました。
そして、「まずは体験してみたい」と思ったのですが、本建ての藍染をしている場所でも、藍染体験は化学建てで行っているところがあったり、天然藍の製品を販売している場所でも、藍染体験は合成藍で行っているところがあることも知りました。
最近、やっと本建ての藍染を初めて体験しました。思ったようには染まらなかったのですが、それもよい体験になりました。でも、うまく染まらなかった場合もいい体験だったと思えるのは私がマニアックだからで、普通は体験で染めたら、よい出来を期待するはず。藍がめのご機嫌も日々あるので、体験として提供するのは大変なことだと感じました。
また、染めただけでも疑問に思ったことがいくつかあって、実際に自分でやらないとわからないことが、いっぱいありそうです。
その後、別の場所でも本建てを体験。サムライジャパンブルーに染まって、すくも=何度も染めないと薄い、緑っぽいというイメージが間違いだと知りました。味噌が違うみたいに、地域ごとに工房ごとに家ごとにカメごとに違うのかも。
自分が何がしたいのか
調べていくと、いろいろあり過ぎて、「はて、私はそんなに難しいことに挑戦したかったのか?」という気持ちになってきました。(まだ何もはじめていないのに)
何がしたいのかという原点に立ち戻ってみると、下記のような気持ちです。
- 他の草木染めではほとんど青が染まらないから、青色を染めたい
- 草木染めらしい、天然で自然な感じに染めたい
- ハイドロ(ニオイもするし、使う時に注意が必要な薬品)は好きじゃないので、できれば使いたくない
- 生葉染めだと木綿や麻が染まらないので、木綿や麻を青く染めたい
草木染めの色のバリエーションの1つとして、藍も自分で染めたいと思っていただけなのに、なんだかハードルが高すぎます。
ブドウ糖建ての存在
その後、ブドウ糖などの還元糖にも還元作用があるので、ハイドロを使わなくても、身近な藍建てができることも知りました。
- ブドウ糖建て ハイドロではなくブドウ糖などの還元糖で還元する方法。
水飴、バナナ、ハチミツなどを入れる場合、栄養分として入れるのかと思っていましたが、還元作用を促進するために入れるんだ、と理解しました。(あってますかね?)
キッチン染めをするなら、これが一番よさそうな気がしてきました。
藍染について、今思っていること
藍染はそれだけで一生の仕事で専業とすべきもの、という文章を本で読みました。草木染作家さんでも藍染だけは専門の人の工房で染めるという話も聞いて、それだけ藍染は特別なものなのだと感じました。
その一方で、そんなに難しく考えなくてもできる、という考え方もあるようです。(そういうメッセージを以前いただきました)インスタグラムを見ると自分で藍建てに果敢にチャレンジしている人もいます。
なんとなく「やるなら本物がやってみたい」と思っていましたが、自分の身の丈でできる範囲でいい、という気持ちに変わりつつあります。まずは化学建てを練習して、その後、ブドウ糖建てで青色が染められるようになりたいです。
やらないとわからないことがたくさんありそうなので、まだ先になると思いますが、一度は本建てにもチャレンジしてみたいです。→化学建ての練習もブドウ糖建ての練習も全然進んでないのですが、少量のスクモ作りと本建て、そろそろチャレンジする予定です。うまくいきますように。
藍染の疑問
藍染の色落ちへの疑問
自分の方向性とは別に、疑問に思っていてわからないことが1つあります。「本物の藍染は色落ちしない」という点です。
私が染めるような木綿の草木染めに比べたら、藍はしっかり染まって何度も洗濯できます。でも、青色が体や白い布に付いてしまうイメージもあります。
「本物の藍染は色落ちしない」と聞いたんです。それで、本物とは何を指すのか?なぜ色落ちしないのか?と疑問に思いました。
建染は摩擦に弱いとも聞きました。「インディゴ色素を固着させる」という建染の染色原理は同じはずなのに、色落ちしないという意味がよくわかりませんでした。
一般的に言われてる藍染の原理と同じなのだとしたら、染料ではなく顔料なのだから摩擦に弱いという点は同じなのではないか?とか、濃く染めていく工程で何度も洗うから落ちないのか?とか、100%顔料ではなく不純物も含まれるから落ちないのか?とか、それとも原理自体が実は違うのか?とか、それとも逆に、化学建てだと薬品で色が流れやすくなるということなのか?という仮説が思い浮かんだのですが、正しい答えがわかりません。
藍染は庶民のものか
(生葉染め用に)藍の育て方の参考に「藍染めは誰でもできる」という本を読んで、古来庶民のものであった藍染め、という言葉が心に残りました。
他の伝統的な草木染については、高貴な印象。木綿を染める藍染が庶民のもの、というのはしっくりきます。
江戸時代には庶民にも藍染の服が普及していたとして、その時は、安価だったんですかね?テマヒマがかかるのは同じですよね?今同じことをしようと思うと、結構高くなっちゃうと思うので、どうして庶民のものであり得たのか、というのが疑問です。→農民が自分で染めていたという話を聞いたので、要確認。
江戸時代、庶民は村にある紺屋で糸を染めてもらって、自分で織っていたらしいです。当時の紺屋の染め料金はどうだったんですかね?
赤み
何度も繰り返し染めて黒に近い、紫がかった、濃い藍染の色は、勝色、カチン色と呼ばれます。武士に好まれた色で、紺色の中に赤みが見える色です。
それとは別の話で、藍染で表面染着が起きた場合も、濃く見えて赤みが入った色になるそうです。(でも表面染着なので色落ちしやすい)
それらの赤みは、何の赤みなんだろう?というのが疑問です。
インディゴの構造異性体のインジルビン?光の屈折?
藍染メモ
以下はメモ書きです。藍染について調べていくと、いろいろな言葉が出てきたので、メモしました。
藍染関連の言葉とその意味
- 藍師 藍を染料の「すくも」に加工する職業を営む人。
- 酢払い、酢洗い 藍染の後処理。藍染の染液はアルカリ性。藍染の後にアルカリになった生地を酸で中和する。中和することで色素が安定する。
- あく抜き 藍染の後処理。中性洗剤で洗ったり、一晩水に漬けたり、60~70度のお湯に漬けたりして、灰汁取りをすると色がさえる。灰汁が黄ばみの原因になる。乾く前に抜いたほうがよく抜ける。時間が経った後も時々洗ったほうが色がさえる。
- 藍染の色止め剤 藍染め用の色止め剤が売っている。
- ハイドロ 化学建てに用いる還元剤。ハイドロサルファイトナトリウム 化学式 Na₂S₂O₄
- すくも(蒅) 藍草を発酵、熟成させたもの。作るのはとても大変。
- 茎ずくも 藍の茎を発酵して作る。インジゴを含まない。合成藍で染める時に使うらしい。
- 藍玉 すくもをつき固めたもの。
- 沈殿藍・泥藍 生葉から作れる。どろっとした青い液。インド藍や琉球藍でよく使う方法。すくもより青みの色に染まる。
- 藍錠(あいじょう)・藍澱(らんでん) 泥藍を乾燥させた顔料。水分を飛ばして固形にした保存用。顔料。
- 藍の乾燥葉 藍の葉っぱを乾燥したもの。乾燥葉からも藍染ができる。
- 藍の顔料作り 藍の葉から藍の顔料も作れる
- 藍棒・藍蝋(あいろう) 紅型など型染めの彩色に使用する、藍の顔料の塊。墨のように擦って使う。
- 藍甕(あいがめ) 藍を建てる器。土中に埋める。
- 藍の種 タデ藍の種を配布している場所も多い。郵便料金だけでもらえたりする。
- ジャパンブルー 日本の藍染をジャパン・ブルーと呼ぶらしい。
- 紺屋 染物屋のこと。江戸時代は藍染が染物の大半だったため。
- 紺屋の白袴 他人のことで忙しく自分のことに手が回らないこと、いつでもできるのに放置してしまうことのたとえ。
- 藍四十八色 濃さによって、藍染の色には様々な名称が付けられている。伝統色で呼ぶと素敵だけれど、色がイメージしにくい。
- かめのぞき(瓶覗・甕覗) 藍の色の1つで、最も薄い色。「かめのぞき」の由来は、藍瓶に漬けてすぐに引き上げてしまうから覗くだけという説と、白い甕に水をはって覗いてみる水の色という説がある。実際にそう染めるわけではなく、藍がめの最晩年に染まる色だとか?
藍染について見聞きしたこと
- 本建ての藍染製品は何万円もする。高価。(いろんな商売があるので、高価=本建てとも限らない)
- すくもに含まれるインジゴは5%程度。濃色にするには何十回も染め重ねる。
- 本建てでは一度に濃色にならないため、糊置きしてくっきりした模様を入れるのは難しい。
- 藍染は糊置きするより抜染(ばっせん。染めた後に色を抜く、脱色する方法)が向いている。
- 藍ガメの温度が保てれば、年中藍染は可能らしい。加温しない人もいる。
- 藍ガメは独特のニオイがある(アンモニアがきついものと、多少の醗酵臭はあっても近寄らないとわからないくらいの物があるらしい)
- アルカリ性なので、ウールを染めるのは少し邪道(でも染めている場合もあるので、染まるのかも)
- 化学建てで還元後のpH調整をすれば、ウールも傷まなそう
- 藍染の薄い色は退色しやすい
- 高価な藍染商品が黄色くなった場合は、灰汁が浮き出てきた状態。お湯につけてアク抜きするとよい。
- 絞り模様の出方が、天然藍と合成藍では変わるらしい。(試してみたいけれど合成藍を持っていない)
なんだか長くなってしまいましたが、以上が藍染について思っていることです。また判明したことがあれば、このページに追加します。
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